【灘の昼ごはん378食目】フツーでハッピーがいい

泉一貫楼が70余年の歴史を閉じた。一貫楼ロスで心にぽっかりと穴が空いた。
どれくらいの穴かというと、クラスのそんなに可愛くもなく目立たないフツーの女の子が転校してしまった感覚に近い。いつも見えてたはずの彼女の何気ない笑顔だったり、ふと見せるもの悲しげな表情、決して彼女のことを好きなわけではない。ただそういう日常がなくなる喪失感はボディブローのように効いてくる。灘郵便局の帰り道「大石一貫楼」の暖簾をくぐる。大阪万博の年に開店したというからかれこれ半世紀。灘区内に5軒ほどあった一貫楼もついにここだけになってしまった。僕にとってラーメンは特別なものではない。なので並んで食べたりわざわざ遠くまで行ったりする気はない。自分の住んでいるフツーの街にフツーのラーメン、いや中華そばがあるということだけでハッピーな気持ちになれる。細目の麺、細目のもやしに薄めの焼き豚、鶏ガラだしと炊き醤油を合わせたスープという絶妙のフツーなバランス。素材がどうののこだわりがどうのというおどしも媚もない、店構えも接客も声高に叫ぶことなくただただフツーで丁寧。そんなフツーの中華そばがある街に住めることに感謝したい。

大石一貫楼「Aセット」
●場所
神戸市灘区鹿ノ下通2-3-10
●本日の昼ごはん
・ラーメン
・炒飯(小)
700円


【灘の昼ごはん377食目】パンダをしばきに原田まで

 

喫茶店に行くことを「茶しばく」というが、灘区ではパンダを見に行くことを「パンダしばく」と言う(略してパンしば)。それだけ街とパンダが近いということだ。灘区は動物園を普段使いすることができる獣住近接の街だ。「時間空いたからちょっとパンダしばこか?」なんて気負うことなくゲタ履きでパンダに会いに行ける街なんてそうない。パンダといえば上野動物園と白浜アドベンチャーワールなわけで、誰も神戸の灘にパンダがいることなんて知らない。王子動物園?どこそれってなもんである。ポートピア81から数えると40年近いパンダ歴があるにもかかわらず、だ。でもそれがいい。できることならパンダがいることも隠しておいて欲しいくらいだ。平日の昼間、閑散とした園内でダラダラしている旦旦を見ると「お前、灘で良かったよな」と声をかけたくなる。すっかり初夏の陽気の土曜日、区界のミュージアムカフェでカレーをしばいた。店名の「ぱんだかふぇ」というフワフワした語感の斜め上をいく横尾忠則デザインのドクロ皿というカオス感が灘的だ。大きなガラス窓から道路の向こう側に目をやると賑わう王子動物園。観光客に見つめられてちょっと困った顔をしている旦旦が目に浮かんだ。

ぱんだかふぇ「
ぱんだらんち」
●場所
神戸市灘区原田通3-8-30  横尾忠則現代美術館 1F
●本日の昼ごはん
・グリル野菜のカレー
・サラダ
・コーヒー
1080円


【灘の昼ごはん376食目】晴れときどきハンバーガー

昔三宮にあった「コスモポリタン」の奥にあったレストランのメニューに「コスモバーガー」というのがあった。パンとハンバーグが別々に出てきて自分でセットするスタイル(だったと思う)で赤いプラスチック製の爪楊枝に刺さったピクルスが添えられていた。とにかくオシャレ感と美味さが衝撃的だったのでこれが毎日食べられたら死んでもいいと子供心に思った。そんな私の心を見抜いたオカンが天気のいい日曜日に時々ハンバーガーを作ってくれた。いや、正確にはハンバーガーではなかった。当時は丸いパン(バンズっていうの?)なんか売ってなかったので、食パンにハンバーガーを挟んだハンバーグサンドだ。ミンチは灘中央市場の老舗、土居精肉店の合挽き、そして赤い爪楊枝にささったピクルスが添えられていた。当時ピクルスなんて元町の明治屋か神戸グローサリーズにしか売ってなかったんじゃないか?わざわざ買いに行ってたのだろうか。あれから40年以上経った。オカンとコスモポリタンはなくなったが土居精肉店は健在だ。5代目が土曜日と日曜日にときどきハンバーガーを始めるようになった。派手な演出も嘘くさい香辛料も一切ないシンプルな精肉店ならではの「ザ・ハンバーガー」を頬張る。五月晴れの王子動物園で食べたオカンのハンバーグサンドを思い出した。

土居精肉店「ミニバーガー、ベーコンチーズバーガー」
●場所
神戸市灘区水道筋3丁目5(灘中央市場)
●本日の昼ごはん
ミニバーガー 330円
ベーコンチーズバーガー 750円


【灘の昼ごはん375食目】シマの食堂

開港150年に沸く(そんなに沸いてないか)10月、神戸港の片隅で摩耶埠頭はひっそりと竣工50周年を迎えた。もちろん派手なセレモニーなどなかった。かつて摩耶埠頭は世界とつながるユメのシマだった。コンテナヤードにはレゴブロックのように色とりどりのコンテナが積み重ねられ、埠頭を渡る風はゲイラカイトを空高く舞い上げた。小さなディーゼル機関車がコンテナを載せた重そうな貨物列車をけなげに引っ張っているのをぼーっと眺めるのは至福のひと時だった。時はすぎ貨物線は廃止され、コンテナも減り、9頭いた岸壁の赤いキリンも今や1頭だけになってしまった。シマには当時のミナトの香りが残る小さな食堂がある。「ピアハウス 摩耶1」という名前がつけられているが、通称「ローキュー」と呼ばれる港湾労働者休憩所だ。店は食券形式で一月分の平日日替わりランチメニューが壁に張り出されている。驚くべきことに本当に1日たりとも同じメニューがない。「マヤカレーセット」「150周年記念ビフカツランチ」も気になるが、今日は該当日ではないのでAセット。500円でおかずが二品選べるシステムだ。おかず1品のBセット(370円)もある。ハイカラなドミグラスではなくとんかつソースがかかったコロッケと煮物。たっぷりとよそわれたメシ。ハイカラという言葉ではくくれないリアルなミナトコーベの味だ。

ピアハウス 摩耶1「Aセット」
●場所
神戸市灘区摩耶埠頭
●本日の昼食
Aセット
・コロッケ2ケ、イワシフライ
・煮物(ひろうず、大根、高野豆腐、人参、しいたけ、つくね)
・ご飯
・味噌汁
500円


【灘の昼ごはん374食目】わかりくい区境を越えてアフリカに出会う

中央区と灘区の区境は分かりにくい。太陽フレアによる粒子が地球に入ったかどうか分からないくらい分かりにくい。特に南側は混沌としている。風景もさほど変わらないし文化が変わるわけでもない。それほど中央区の旧葺合区エリアと灘区南西部は似ている。歩いているうちにいつの間にか国境を越えている感じがなんとなくヨーロッパみたいだ(歩いて国境越えたことないけど)。ナダタマ的にはこの辺りを非武装中立地帯として灘区とみなしている(みなし灘区)。毎月1回区境を越えて「JICA関西食堂」へ行くことにしている。ここでは区境どころか国境が越えられる。大食堂風情の空間には様々な国籍の人が集う。シンプルでモダンなインテリアとエスニックなメニューとのギャップが大阪万博世代の心をくすぐる。お目当ての月替りエスニック料理はマダガスカル料理だった。一瞬ミルマスカラスが脳裏を横切る。違う、それはメキシコだ。どこだマダガスカル? テーブルの上に説明カードがあった。そうだアフリカじゃないか。トレイにはルマザーバというさらっとしたスープとアシャールという野菜の炒め物とライスとフルーツ。メイン的なおかずがない。「ルマザーバをご飯にかけてお召し上がりください」とある。おもむろにルマザーバをご飯にかけてサラサラとお茶漬け風に食べてみた。「ん、これは…」それはまさしく奄美諸島の郷土料理「鶏飯」だった。遠く離れた二つの島が舌の上で繋がった。ここ脇浜は奄美コミュニティの地、確実にゲニウスロキ(地霊)の気配を感じる。でも目の前で和柄の丼ものをスプーンとフォークを使って器用に食べているアフリカ人はそんなことにはきっと気づいていない。

JICA関西食堂「月替りエスニック料理」
●場所
神戸市中央区脇浜海岸通1-5-2
●本日の昼食
マダガスカル料理
・アシャール
(カリフラワー、インゲン、キャベツなど野菜をカレー粉で炒め、酢をからめた酸味の効いた一品)
・ルマザーバ(鶏肉、トマト、小松菜をショウガと唐辛子で煮込んだスープ)
・ご飯
・フルーツ(バナナとパイナップル)
720円


【灘の昼ごはん373食目】あなたは焼きそばに酢をかけますか?

あなたは焼きそばに酢をかけますか? 焼きそばといってもソース味のナニではなく中華料理店のアレ、固目の焼きそばに海鮮とか五目のあんがかかったやつ。え?かけない?酢をかけない焼きそばなんてポートタワーのない中突堤みたいなものだ。神戸っ子ならスマートに焼きそばに酢をかけてほしいと切に願う。「焼きそばに酢」は味を変えるというよりもむしろ儀式に近い。洋食屋で皿に平たく盛られたライスに塩をふったり、カレーにウスターソースかけたりとか。あれに近いのではないか。これから焼きそばを食べますよという意思表示であり、無事最後まで食べますようにという願い。焼きそばに酢をかけるということはそういうことだ。「泉一貫楼」の五目焼きそばは神戸らしいあっさりとした味とで実に酢がよく合う。酢でマスタードを少し溶く。麺の硬さをゆっくりとほぐすように酢をかける。相変わらずの安定感とそこはかとない普通感。焼きそばはこれじゃないと。今日は店内でちょっと嬉しいことがあったので餃子とビールも注文した。何が嬉しかったかはヒミツだ。

泉一貫楼「五目焼きそば」
●場所
神戸市灘区泉通3丁目
●本日の昼食
五目焼きそば 餃子 ビール


【灘の昼ごはん372食目】箸でサンドイッチ

前回のエントリーにこんな選評をいただいた。「キュウリ嫌い。これは、当事者には深刻なアイデンティティーと向き合うテーマかもしれないが、キュウリ好きの読み手にとっては対岸の火事であって、同調しにくい。なるほど、そういう問題も起こるのであろうという程度で、他人事を延々と読まされて退屈だった」 おっしゃる通りだが僕にとっては大問題なので今回もキュウリネタだ。水道筋で隠れファンの多い(別に隠れてないか)しろかね珈琲店の人気メニュー玉子野菜サンド。残念なことにデフォルトではキュウリが入っているのでキュウリぬきをオーダー。なのに出てきたサンドイッチにはキュウリが入っていたのですかさず指摘した。「すいません!すぐ作り直します」という言葉にとてつもない罪悪感を感じた。なんで俺はキュウリが嫌いなんだろうと自責の念にかられていたところ、となりの客が玉子野菜サンドを注文した。よかった、さっきのが回せる。ほっとする。とにかくしろかねの玉子野菜サンドは分厚い。思いっきり頬張るとふんわり焼かれた厚焼き玉子は口の中でさっと溶ける。サンドイッチの語源はイギリスの貴族、サンドイッチ伯爵がゲームを続けながら片手で食べられるようにパンで具を挟んだという俗説がある。しかし、分厚くてふわふわのしろかねの玉子野菜サンドは箸でつまんだほうが食べやすい(当社比)。あれだ、カップヌードルをフォークで食う感覚に近い。サンドイッチ伯爵はこんな食べ方は想定していなかっただろうけど知ったこっちゃない。それが文化だ。

しろかね珈琲店「玉子野菜サンド」
●場所
神戸市灘区水道筋5丁目
●本日の昼食
玉子野菜サンド(キュウリ抜き)、ホットコーヒー
800円


【灘の昼ごはん371食目】冷メン’75

キュウリの乗っていない冷やし中華に想像を巡らせていて思った。キュウリが入ってない冷やし中華を探し続けるよりも、冷やし中華のキュウリを抜いてもらったらいいのではないか。なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。いてもたってもいられなくなって、全速力で水道筋のアーケードを抜け、大阪王将に飛び込み、キュウリ抜きの冷やし中華を注文した。「キュウリ抜きの冷麺ならできますよ」
冷麺・・・そうだ、そうだよ、神戸では冷やし中華のことも冷麺と呼ぶことをすっかり忘れていた自分を恥じた。(というかキュウリが確実に入っている冷麺を注文することがそもそもなかったわけだが)カウンターの中でキュウリ抜きの冷麺を盛り付ける王将の大将(ややこしいな)の手が一瞬止まったような気がした。ラジオから流れる近藤光史のハイテンションなトークをぼーっと聞き流しながら、無理な注文をしてすいませんと心の中で詫びる。明け放れたドアから見える商店街の路面には、まだまだ真夏の日が差しがさしている。何事もなかったようにレタスがいっぱいに敷き詰められたキュウリ抜きの冷麺に添えられた辛子がツーンと鼻にきて少し涙ぐむ。夏休みの暑い日、母親が作ってくれた「キュウリ抜きの冷麺」を思い出した。

大阪王将王子公園店「冷麺」
●場所
神戸市灘区水道筋6丁目(水道筋6丁目商店街)
●本日の昼食
冷麺(キュウリ抜き)
750円


【灘の昼ごはん370食目】想像してごらん?冷やし中華にキュウリが乗っていない社会を

「胡瓜憎けりゃ冷やし中華まで憎い」という言葉がある。キュウリを憎むあまり、それに関わるもの全てが憎くなることのたとえだ。サンドイッチのキュウリしかり、ポテトサラダのキュウリしかり、という話は369食目で書いた。「キュウリが嫌い?なんで?」などとのたまう上から目線のキュウリ保守派には恐怖感すら覚える。彼らは夏は体を冷やすキュウリがいいなどと聞こえのいい言葉で大衆をだましているだけだ。そのうち「一億総キュウリ社会」とか言い出すんじゃないだろうか。恐ろしい。でも僕は日本でただ一人になっても叫び続けたい。「キュウリ絶対反対、キュウリのない平和な社会を」と。想像してごらん?冷やし中華にキュウリが乗っていない社会を。キミは僕のことを夢想家だと言うかもしれない。でも僕は一人じゃなかった。水道筋の片隅にキュウリが乗っていない冷やし中華がある。灘センター商店街の「膳房」の夏季限定メニュー「冷やし担々麺」には一切キュウリが使われていない。濃い緑はホウレンソウだ。そう、キュウリの何倍も栄養価が高い。キリリと冷えた中華麺にピリ辛のタレ。冷たいのに胃袋がほんのり温かくなった。きっと世界はひとつになれると思う。

膳房「冷やし担々麺」(夏季限定)
●場所
神戸市灘区倉石通3丁目(灘センター商店街)
●本日の昼食
冷やし担々麺、杏仁豆腐
850円


【灘の昼ごはん369食目】冷やしイタリアンはじめました

「冷やし中華はじめました」盛夏の中華料理店の壁に貼られた張り紙が恨めしい。いや冷やし中華が恨めしいのではなく、添えられたキュウリが憎い。一かけでもキュウリが載っていると、そこからキュウリ臭が広まって全体をダメにしてしまう。これを「青臭ったキュウリの方程式」と呼んでいる。芸能界水泳大会に例えるとアイドルの中に混じった青空球児みたいなものだ。今日はアーケードからでるのも億劫になるくらい暑かったので、アーケード内でツルっと冷たい麺を探す。灘センター商店街のlargoのランチメニューに「海老とかぼちゃの冷製スープパスタ」というのがあったので注文する。「こ、これは!」。運ばれてきた皿を見て思わず声が漏れた。オレンジ色のカボチャの冷製スープの上によく冷えたカッペリーニ、トマトと海老の赤、オクラとアボカドの緑が映える。まるで皿の上で榊原郁恵とアグネスラムがはしゃいでいるような溢れんばかりの夏感。しかも、しかもだ、あの憎っくき青空球児、いやキュウリがいない。夏だからキュウリ入れとけとか、彩りはキュウリで、みたいな三流芸能プロダクションのような安直な発想はない。
是非「冷やしイタリアンはじめました」と壁に貼ってほしい。

largo「海老とかぼちゃの冷製スープパスタ」
●場所
神戸市灘区倉石通2丁目(灘センター商店街)
●本日の昼食
海老とかぼちゃの冷製スープパスタ、サラダ
800円(税別)