【灘の朝ごはん5食目】喫茶ドニエ

今日は2018年6月6日、水曜日。水道筋のコーヒーショップ「ドニエ」。昨日の夜からあきれるくらい雨が降っている。今のところ晴れという概念の暗示すらない。
「ねえ。畑原市場のアーケード、なくなっちゃうのかしら?」と彼女は僕に訊ねた。
「黄身次第だね。」まずは少しはぐらかして白身から食べるのがベターだ。
「それはそうと。」僕は香ばしく焼かれたーそれは黄身にとってはどうでもいいことかもしれないートーストの耳を少しちぎるとパン屑が床に落ちた。
「やれやれ」と心の中で呟く。
「これは参考意見として聞いて欲しいんだけど。」
僕は丁寧に焙煎されたUCCドニエブレンドのサイフォンコーヒーを一口飲んでから言った。
「黄身は半熟でないといけない。」
「そんなことより。」
彼女は面倒臭そうにロースハムーそれは伊藤ハムではないかもしれないーを脇にやりながら言った。
「私のことどう思ってる?」
その言葉が彼女の口から出たときにはもうすべてが終わっている。
僕はトーストの耳で半熟の黄身をすくって食べると「それは、黄身が決めて欲しい。」と言って席を立ち、勘定を払いーそれは480円だったかもしれないーラヴィン・スプーンフルの『水道筋汗かきえびす音頭』を口ずさみながら店を出た。

「人間の後半生は、通常、前半生で蓄積された習慣のみで成り立つ」
(フョードル・ドストエフスキー)

僕はドニエで半熟の黄身をトーストですくって食べ続ける。それは素敵なことだ。
誰がなんといおうと。

●場所
神戸市灘区水道筋5丁目3−3
●本日の朝食
スナックモーニング
・ホットコーヒー・トースト・ハムエッグ
480円


【灘の朝ごはん4食目】ロイヤルホスト西灘店

阪急王子公園駅という呼び方がしっくりこない。いや、水道筋の最寄駅が王子公園というのがしっくりこないと言った方がいいかもしれない。水道筋のデコンストラクションな風情と公園という整ったイメージが合わない。これはもう「ちぎれた愛」の西城秀樹が能天気な「YMCA」を歌うくらい違和感がある。こんなのヒデキじゃないと子供心に思った。やはり水道筋の最寄駅は「西灘」であって欲しい。「ロイヤルホスト西灘店」はまだ阪急西灘駅だったころ開業した。かれこれ40年ほどの歴史がある灘区ファミレス界の老舗だ。どんどんと王子公園化される界隈で今でも「西灘」を名乗るという心意気が嬉しい。窓際の席に陣取る。ロイヤルホスト自慢の大きい窓から、朝日に輝く山手幹線を眺めながらホットコーヒーをすするのが西灘の朝に似つかわしい。今日はブルースカイが広がっていた。このあたりは神大闘争で武装した学生と機動隊が対峙した場所だ。振り向けばあの時の目にしみる空の青さ思う。

●場所
神戸市灘区城内通1丁目6−22
●本日の朝食
トースト&サラダモーニング
ホットコーヒー、トースト、サラダ
475円


【灘の朝ごはん3食目】しろかね珈琲店

通りから店内が丸見えの喫茶店を勝手に「見える化フェ」と呼んでいる。ガラス張りにしてオープンに、とかハッタリ系ポピュリスト首長の公約じゃないんだからと言いたい。喫茶店は街のシェルターだ。なんでもガラス張りにされちゃたまったもんじゃない。飲みすぎた朝とかパツンパツンにむくんだ顔でコーヒーをすする姿とか外から見られたくないじゃないですか。でも、店内から通りを歩く人を眺めるのは結構好きだったりする。だからといって外から見えず、中から見えるフィルムをガラスに貼ったらエロ本の自販機になってしまう。この矛盾を解決するのが高低差だ。一見、見える化フェ風の「しろかね珈琲店」の2階席は通りを歩く人と視線が合わず街を眺められる。駅へ急ぐサラリーマンが天神筋あたりの病院へ向かうお婆さんとぶつかりそうになって謝ったりしてるのを眺めてるとちょっと楽しい。視点が変わるといつもの街も違って見える。喫茶ローズの「低さ」もいいけど、しろかね珈琲店の「高さ」もいい。かつて「精密機械」と呼ばれた広島の北別府のような高低の使い分けが灘ライフを豊かにするんだよな〜、なんてウンウンとうなづいてたら水道筋交番のおまわりさんと目が合った。

しろかね珈琲店
●場所
神戸市灘区水道筋5丁目
●本日の朝食
モーニングプレートセットA
ホットコーヒー、ロールパン、目玉焼き、ベーコン、サラダ
450円


【灘の朝ごはん2食目】喫茶ローズ

喫茶「ローズ」のテーブルは低い。どれくらい低いかというと「今日は、暑いのう」とか言いながらパタパタとうちわを仰いでいる笠智衆を捉える小津安二郎のカメラの位置くらい低い。わかりにくいな。このちゃぶ台以上テーブル未満の、いわゆる「純喫茶」独特のテーブルの高さは、ちゃぶ台という和の文化とカフェという洋の文化がせめぎあった末のいい塩梅の高さなのではないか。知らんけど。やがて膝の高さのテーブルにトーストとコーヒーが運ばれてくる。壁に目をやるとALTECのスピーカーとエキストラコーヒーのカレンダー、年代物の巨大なダイキンのクーラーがブンと低い唸りを上げながら冷気を吐き出す。月曜日特有の気ぜわしい前のめり感がふっと落ち着く。ここはあえて月曜日の朝に行くのがいいかもしれない。丸みを帯びた窓枠に金色のカーテンがかる0系新幹線のグリーン車のような窓からは坂道が見える。梅雨の時期は地獄坂を登る神戸高生の足取りも重い。今日も暑くなりそうだ。

喫茶ローズ
●場所
神戸市灘区天城通7丁目
●本日の朝食
ホットコーヒー、トースト
280円


【灘の朝ごはん1食目】カフェ・ド・ピコロモンド

今朝は大石のBSショッピングセンターから25年前に王子公園の東に移転した老舗喫茶店「カフェ・ド・ピコロモンド(旧ピッコロ)」で分厚いトーストをかじり、コーヒーをすする。大きな窓から青谷リバーを眺めているとヘンリー・マンシーニの名曲「ムーンリバー」を思い出した。学生時代「ティファニーで朝食を」を初めて見たときティファニーという喫茶店にヘップバーンが朝飯を食べに行く映画かと思ってたら全く違っていた。数年後、女の子へのプレゼントはティファニーのオープンハートというバブリーな時代になったが、当時の僕にはそんなものは買えず、結局リンゴの形をしたピアスを誕生日に渡したと思う。あれから30年経った。そして「カフェ・ド・ピコロモンド」は今年創業50年を迎えるそうだ。

カフェ・ド・ピコロモンド
●場所
神戸市灘区中原通7丁目
●本日の朝食
ホットコーヒー、トースト
450円